前回は思考も多くの間違いを犯すという話でした。

間違いを犯してしまう大きな原因の一つは、過去のパターンで思考してしまうということでした。過去のパターンで思考してしまう原因は、私たちには記憶があるということです。しかもその記憶の多くは自分では意識していないというところがポイントです。

脳科学の発展などでわかったことの一つが、私たちの一日の行動の95%以上は無意識のうちに行われているということです。あなたが朝起きてから会社に行くところまでを思い起こしてみて下さい。目覚まし時計を止めて、顔を洗って、歯を磨いて、着替えて、朝食を食べて、駅まで歩いて、電車に乗り込んで、会社のある駅で降りる。

これらの行動のうち、意識して行動しているものはほとんど無いはずです。朝食をパンにしようかご飯にしようかという時ぐらいは、意識して思考を働かせているかもしれませんが、それ以外の行動はほとんど無意識なのではないでしょうか。自宅から駅までの道を、いちいち「2つ目の角を右に曲がって、コンビニが見えて来たらその先を左」などと意識はしておらず、自然に歩いているうちに当たり前のように駅に着いていることになります。その間、頭(思考)では、前日の飲み会の様子を思い出したり、今日の仕事のこととかを考えているはずです。

つまり日常の繰り返しの行動はシステム1が掌っていて、その間に並行してシステム2は他のことを思考させていることになります。

免許を取るために教習所で車の運転の練習をしている時は、一生懸命にシステム2を使って、このくらいハンドルを切るとこのくらい曲がるのだとか、このくらいアクセルを踏むとこのくらいスピードが出るのだとか、思考して運転しています。しかし、ひとたび運転技術を覚えてしまえば、システム1が自動的に運転してくれるようになり、システム2では助手席の人との会話に熱中することができてしまうわけです。

私たちは初めて出会う対象に対しては、システム2を使って意識して思考して対処するわけですが、ひとたび習得して記憶してしまえば、システム1で無意識のうちに行動しているわけです。

子供の頃は、意識してシステム2を使って行動しないといけないことが多いことになりますが、大人になると、95%の行動は無意識のうちに行えるようになっているということになります。

このような構造から、過去の記憶に基づいて無意識に自動的に作動しているシステム1はミスも多く、意識して思考しているシステム2の方が正確であるという傾向が導かれることになります。

では思考は無意識の記憶の影響を受けないかというと、決してそういうことではないわけです。そして思考も無意識のうちに記憶の影響を受けてしまうことが、思考の硬直性を生んでしまうことになります。

硬直的な思考パターン

思考の硬直性の一例が思考パターンです。思考パターンとは私たちの記憶の中にあり、自分では無意識のうちに使っている思考のクセです。もちろんこれは悪いことではなく、パターンがあるから私たちは素早く正確に思考できるわけですが、これが悪い方作用することもあり心理学者たちは悪い思考パターンを色々類型化しています。

有名なバーンズの類型はこんな感じです。

1. 全か無か思考(all or nothing thinking)
2. 一般化のしすぎ(over-generalization)
3. 心のフィルター(mental filter)
4. マイナス化思考(disqualifying the positive)
5. 結論の飛躍(junping to conclusions)
 a. 心の読みすぎ(mind reading)
 b. 予期の誤り(the fortune teller error)
6. 拡大解釈と過小評価(magnification and minimization)
7. 感情的決めつけ(emotional reasoning)
8. べき思考(should statements)
9. レッテル貼り(labeling and mislabeling)
10. 個人化(personalization)

たとえば1のall or nothingとは完璧主義のことですね。

テストで100点だけがOKで99点ではダメという典型的な硬直的思考ということになります。他のものもここではいちいち説明しませんが、硬直的な偏った思考ということです。

メンタルヘルスの問題が起きる原因は、これらの硬直的な思考、認識が根底にあることが多いことになります。代表的なメンタルヘルス治療法である認知行動療法は、このような硬直的な「認知」を、柔軟に変換していくことで治療していく方法です。

私たちは過去の経験や知識を使って、一つ一つ目の前に起きる事象を類型化することで、効率的に生きているわけですが、それが得てして硬直的な思考や行動に結びついていることを常に認識しておくことが必要です。


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