今回からは感情と思考を見て行きます。まず感情とは何でしょうか。

感情と情動

感情を大まかに定義すると、「私たちが五感を通して得る情報に対して、身体が反応したものを、感じ取ったもの」となります。何かわかったような、わからないような定義です。「情報に対して身体が反応したもの」は情動という言葉で定義されることが多いので、感情とはその「情動を感じ取ったもの」というふうに区別するためにこのような定義になっています。つまり情動の段階では人はそれに気がついておらず、感情になって初めて気づくという関係にあります。この情動と感情の区別は脳科学の世界においては重要な概念ですが、我々のこれからの話においてはそこまで細かく区別する必要もないので、これ以降は感情という言葉のみで進めて行きたいと思います。

いずれせよ、私たちは何か情報を得ると感情がまず発生します。この情報は外からの情報だけとは限らず自分の中からの情報、たとえば「お腹が空いた」とか「何かを思い出した」なども含まれます。つまり外部情報と内部情報、両方に対してまず感情が反応するということです。感情には様々な種類のものがあります。いわゆる喜怒哀楽と呼ばれるような基本的なものが一次感情あるいは原始感情と呼ばれます。これに対して誇り、恨み、妬みなどのより高度で複雑な感情は二次感情あるいは社会的感情などと呼ばれます。ここではやはり話を簡単にするために、まずは一次感情を中心に話を進めて行きます。感情は基本的に快感情と不快感情の2種類に分けられます。快感情の代表選手は「喜び」で、不快感情の代表選手は「怖れ」「怒り」「悲しみ」です。どうして不快感情の代表選手の方が多いのかという理由に関しては諸説ありますが、生き物にとって不快感情の方が重要だからという説が有力です。

快感情の有無は直接生死には関わりませんが、不快感情の有無は生死に関わる事態になります。たとえば怖れという感情を感じられない人は、平気で高い断崖絶壁の淵に立ったり、危険な地域に入って行ってしまい、命を落とす確率が格段に高いことがわかっています。

利益による快感と損失による痛み

行動経済学における有名な理論としてプロスペクト理論があります。人は利益による快感より、損失による痛みの方をより強く感じ、それを避けようとする行動を取るという理論です。

100万円の利益と100万円の損失が発生する確率がそれぞれ50%の賭けがあるとして、あなたは参加しますか?この賭けの期待値は0なので、合理的な経済理論からすれば、参加してもおかしくないことになります。しかし実際にはほとんどの人がこの賭けには参加しません。それを提唱したのがプロスペクト理論です。普通の人は100万円の利益より100万円の損失の方をより重要視するので、同金額の利益と損失が発生するような賭けにおいては、利益の出る確率を損失が発生する確率の2倍程度にしないと、賭けに参加しないことがわかっています。もしあなた自身はこの賭けに参加してもよいではないかと感じているとしたら、あなたは相当程度リスク選考の強いタイプと言えます。

プロスペクト理論が成り立つ背景にも、人にとって快感情より不快感情の方が生きる上で重要であるから、ということが言えます。人間にとって不快が重要だという点は、本連載のトレーディングにおける心理学においての主要な命題の一つです。不快が重要であるからこそ、それをどのように扱うかが投資行動の優劣を左右するからです。

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