さて、だいぶ感情と思考のしくみの話ばかりしてきたので、そろそろ本題のトレーディングと心理学の関係に入っていきます。

まずトレーディングで成功するために一番大事なことは、感情に振り回されないということです。多くのトレーダーが何の心の準備も無しにトレーディングに入ってしまえば、必ず感情に振り回されてしまうことになります。何故なら、自然のままでは人間の心のしくみがそのようにできているからです。

今までのおさらいになります。感情は、自分の欲求を満たす対象に対して喜びなどのポジティブ感情を発し、その対象への接近行動を促します。自分の欲求を阻害する対象に対しては、怒り、怖れ、悲しみなどのネガティブ感情を発し、その対象からの回避行動を促します。我々は普通に欲求が満たされている状態では、つまりポジティブ感情でいる状態の時は、もっと自分をポジティブにしてくれるものは無いかという探索モードにあり、好奇心旺盛に周りを見渡したり、新しい情報を積極的に探しに行ったりしている状態にあります。これをポジティブ感情の拡張−形成理論と呼びます。

一方で、その状態が破られ、自分の欲求が阻害されるそうな危険な兆候を察知すると、怒り、怖れ、悲しみなどのネガティブ感情が惹起されます。そしてそれまで使っていた探索機能などは一時的に全て止めて、そのネガティブな対象を回避、排除するために全神経を集中して行動するようになります。ネガティブ感情が人にとって不快な感情にできているのは、一刻も早くその状態から逃れたくなるように仕向けるための生物学的な仕組みであります。

ちなみに怒りという感情は、ネガティブな対象と戦うことで排除することが一番得策である時に惹起され、怖れという感情は、戦っても勝ち目が無く、隠れるか逃げるかによって回避することが一番の得策である時に惹起されるということになります。

つまりトレーディングで損失が発生しそう状態、あるいは実際に損失が発生した状態が起きると、怒り、怖れ、悲しみなどのネガティブ感情が発生し、とにかく一刻も早くその状態から逃れることだけに全神経が集中して、客観的に冷静に全体の状況を見渡すとか、他の情報を探してみるとかができなくなる精神状態になることになります。

人間がジャングルの中に住んでいて、敵と戦うか、逃げるか、隠れるかが生存のための手段であった時代には、このような感情の作用が大いに功を奏していたわけです。ところが、現代社会で行っているトレーディングの損失がネガティブな事象だとしても、それと戦って、あるいは隠れるか逃げるかして回避、排除できる対象ではないわけです。つまり、損失という敵に対処するのに、原始的な感情というものは何の効果もなく、逆に足を引っ張る存在であるということになります。

現代においても、これがたとえばスポーツの試合で、相手を打ち負かす闘争本能をかき立てるために、怒りを使えるということであれば別ですが、マーケットを相手にしている場合には、怒りや怖れは何の効果も無いのです。そうなるとポイントは、損失が発生しそうな、あるいはすでに発生している状態においても、それを苦痛だとは感じないで、冷静に客観的にマーケットからの情報を直視し、分析できるような精神状態を作り上げることということになります。

次回からは、その辺りを詳しく見て行きます。



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