普通に生きている分においては、損をするとか、ミスを犯すというのは、ネガティブな出来事であり、それに対してネガティブな感情を感じてしまうのは自然なことです。

それでは、トレーディングにおいては、損失やミスをネガティブなことと捉えないようにするにはどうしたらよいのか?それは見方を変えてしまえばよいことになります。

これまでもご説明してきたように、人間は外部の情報や状況を、ありのままに受け取っているわけではありません。記憶の中にある人それぞれの知識や経験、思考パターンや信念に応じて、事実を省略、歪曲、一般化しつつ、一人ひとりが違う受け止め方をしています。人それぞれに違うフィルターを通して、世の中を見ているわけです。

道の向こうから犬を散歩させている人が近づいて来たら、犬が好きな人は「犬は可愛い」という認知を持ってポジティブな感情を感じ、自然と近寄って行きます。犬が嫌いな人だったら、「犬は怖い」という認知を持ってネガティブな感情を感じ、自然と遠のくことになります。

通常の世界においては、ほとんどの人は「損失やミスは悪いことであり、とにかく避けなければならない」という思い込みがあるので、損失やミスが生じると、当然のようにネガティブな感情を発生させてしまいます。

ということは、ことトレーディングの場面においては、そのような思い込みは変えてしまえばよいということになります。たとえば「損失やミスはできれば避けた方がよいが、トレーディングをしている限りは必ず起こることであり、起きたことをネガティブに捉える必要はない」という思い込みに変えればよいということになります。

これは認知療法と呼ばれる臨床の現場でも使われるテクニックです。たとえば仕事に失敗して上司に叱られたことがきっかけで、自分はダメな人間で、もう会社ではやっていけないと思い込み、うつ病に発展してしまう人がいます。そのような時に認知療法では、たった一回の失敗でそこまで思い込んでしまうには、その背後に何か非合理的な思考パターンがあると考えます。たとえば、ありがちなのが完璧主義の思考パターンで、「私は絶対に失敗してはならない」という思考パターンです。

そのような思考パターンを探り当てたら、「失敗はできればしない方が良いが、人間は完璧ではないので、必ず失敗は起きる。そのような時は、その失敗をいたずらに引きずるのではなく、失敗の原因を考え、同じ失敗を起こさないような対策を考えたら、もう失敗は忘れた方が合理的である」というような、ある意味自分にとって都合のよい思考パターンに変えることで、うつ症状を少しずつ治していくことになります。

すなわち、認知(思考パターン、およびそこから生じる思い込み)次第で感情が変わるので、感情を治療するには認知に焦点を当てる、という意味で認知療法なわけです。

トレーディングにおいても、損失やミスに対する認知を変えてしまうことで、ネガティブな感情を引き起こさないようにすることができるということになります。さて、しくみとしては以上の通りなのですが、ではその認知は簡単に変えられるのか、という問題に移ることになります。それは少なくとも簡単ではありません。

また次回に続きます。


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