今回は感情に続いて思考についてです。

私は金融出身なので金融用語で言うと、感情は一次審査、思考は二次審査ということになります。感情は何がポジティブで何がネガティブかを、短期的、主観的、ミクロ的、自分の立場で、瞬時に判断します。思考は長期的、客観的、マクロ的、自分及び周りの人の立場で、時間をかけて判断します。

たとえばあなたが仕事が終わって家に帰ってきたら、テーブルの上にケーキが置いてありました。感情で行動する場合には、ケーキを見た瞬間に「おいしそう!」とポジティブ感情が発生し、(あなたが甘いもの嫌いでない限り)瞬間的にかぶりつきます。

一方、思考で行動する場合には、ケーキを見た瞬間にポジティブ感情は発生しますが、そこですぐに行動するのではなく、「待てよ」と考え始めます。このケーキは自分が食べてもよいものなのか、誰か他の人のものか。食べてもよいとしても、今はまだ夕御飯を食べる前だから、ご飯を食べてから食べた方がおいしく食べられるのではないか。あるいは自分は今ダイエット中だから、そもそも甘いものは控えた方がよいのではないか、などと考え、結果として今は食べたい気持ちを抑えて食べないことにしたりするわけです。これは目先の「食べたい」という欲求を満足させるのではなく、長い目で見た「自分の健康を維持したい」という欲求を優先させたということになります。

このように、目先の短期的欲求ではなく長期の欲求を考え、自分の主観的な欲求だけはなく、自分の状況を客観的に見て、どの欲求を満足させるのかが一番重要か優先順位を考えた上で行動させるのが、思考ということになります。そして、人間の脳で感情を働かせている部位と、思考を働かせている部位は違うことがわかってきて、進化の過程で感情の後に思考が備わってきたこともわかってきたわけです。

私たちの人生も感情の後から思考が付いて来ます。赤ちゃんから幼児にかけては感情に任せて行動していますが、いわゆるしつけが始まると、思考によって感情を我慢するようになってきます。遊びたいけど、将来偉くなるために我慢して勉強する。おもちゃを独り占めしたいけど、他人に思いやりを持つために貸してあげる。プロ野球選手になりたかったけど、安定した生活を手に入れるためにサラリーマンになる。イヤミな上司を殴ってやりたいけど、クビにならないために我慢する。

人生は感情を思考で我慢する連続です。そして感情を思考で我慢することが「大人になる」ことだと教わるわけです。一次審査より二次審査の方が偉いので、優先されることになります。もちろん、より重要な欲求を満足させるために、より重要でない欲求を我慢しているはずなので、それで納得していれば問題はないはずです、しかし思考では納得していても、文字通り感情では納得してないことが多いので、問題が生じることになります。

ダイエットのためと思ってケーキを我慢しても、後になって「あのケーキ食べたかったなー」といつまでも引きずることがあるわけです。人の悩みの多くは、このような感情と思考のミスマッチから生じることになります。しかも、思考が必ずしも正しくないことがあるので厄介なのです。

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