心理学で最も有名な概念のひとつに「自我の防衛機制」というものがあります。これは、人が現実をありのままに受け入れると自我が脅かされる可能性のある時に、現実を歪曲したり、無視したり否定したりして、自分の都合の良いように受け入れる機能です。これを自分では気がつかないで無意識のうちに行います。気がついたら自分が傷ついてしまいますから。

よくたとえで出てくるのが、試験が迫って来ていて、本当は勉強をしなくてはならないのに、いきなり部屋の模様替えを始めてそれに没頭してしまうケースです。これは「逃避」という防衛機制の基本形です。不合理なことで上司に叱られたサラリーマンが、上司への攻撃的衝動を抑制して、家に帰って来てから家族に八つ当たりするのは、「置き換え」という防衛機制です。

小学生の男の子が、好きな女の子にいじわるをするというのもよくあります。これは「反動形成」と言って、受け入れたくない感情や欲求を抑圧して無意識のものとする代わりに、正反対の意識や行動に置き換えるものです。現実をありのままに受け入れられる人は、自我の強い人だけで、ほとんどの人は、現実を歪めて、自分にとって都合の良いように受け取っていると言われています。

それでは守りたい自我とは何なのでしょうか。ロジャーズによれば、守りたい自我とは自己概念=セルフイメージのこと、ということになります。つまり「自分はこういう人間である」、あるいは「こういう人間でありたい」というイメージです。

小学生の男の子は(最近の小学生は違うかもしれませんが)、「男らしくある」ためには、女の子を好きになる女々しい自分を認めたくないので、反動形成が起きることになります。普通に生活している分においては、このような防衛機制は、我々が気分よく生きていくためにプラスに働いていることが多く、特に大きく問題になることはないかもしれません。

ところが、もうおわかりのように、トレーディングのようなシビアな世界においては、このような防衛機制が致命的にマイナスに働いてしまいます。つまり、普通に防衛機制を働かせたままトレーディングを行えば、自分にとって不利なマーケット情報は抑圧され、有利な情報にばかり意識が行ってしまうことになります。

防衛機制が自我を守るために起きているとすれば、「自分は必ず勝たなければならない」とか「自分は他人より優秀なトレーダーである」などの自己概念が強ければ強いほど、防衛機制が強く働いてしまうことになります。そこで、まずはそのような自己概念を捨てることから始めるというのが基本になるわけです。



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